Inkscapeで遊舎工房に依頼するアクリルカット用データを作ってみる


自作キーボードと一口に言っても、様々な楽しみ方があると思います。大きく分けると、①組立てや設計はせずにスイッチやキーキャップを付け替えて楽しむカスタムキーボード的な楽しみ方、②キットを買ってパーツをはんだ付けして組み立てる楽しみ方、③基板から設計してオリジナルのキーボードを作る楽しみ方の3つでしょうか。私はGL516で設計の仕方を学んで、現在は③に少し足を踏み入れたところです。

基板を設計できるようになると、サンドイッチ構造ならすぐにオリジナルキーボードを作ることができるようになります。その際、ボトムプレートやスイッチプレートをアクリルで作れるようになると、様々な色のプレートにできたり、LEDの光を透過させたりして、よりキーボードを華やかにできます。

本記事では、無料で使用できるInkscape遊舎工房に依頼するアクリルカット用のデータを作成する方法について説明したいと思います。

目次

1.本記事の目的
2.KiCadからデータを出力する
3.PDFファイルをsvg形式に変換する
 3‐1.テンプレートファイルにPDFのデータをコピーする
 3‐2.最外周の外形線を結合する
 33.最外周以外の線を結合する
 3‐4.線の色を変更する
4.発注する
5.終わりに(免責事項含む)

1.本記事の目的

遊社工房にアクリルカットを依頼する場合、定められたデータ形式で作成したファイルを準備する必要がありますが、自作キーボードに関するサイト等でも、Inkscapeを使ったデータ作成方法を詳細に解説したものはあまりないように感じます。

サリチル酸さんのGL516デザインガイド遊舎工房レーザーカットサービスのページにはIllustratorによるデータ作成の説明はありますが、Inkscapeについてはあまり記載がありません。

もちろん、高機能なドローソフトであるIllustratorを使えれば何の問題もないでしょうが、高機能な分当然高価です。現在はサブスク方式で月額2,728円。昔は買切りで10万円というイメージたっだので安く感じますが、年間32,736円。3年で約10万円になってしまい、自作キーボード用に少し使いたいだけだとかなり割高です。

この点、Inkscapeであれば無料で使えますし、少なくとも自作キーボード用のプレートのデータを作る分には不足はありません。そこで、本記事では私がGL516デザインガイドに沿って自作したキーボードのデザインプレートを例にして、データ作成の流れを説明したいと思います。

Inkscapeで遊舎工房のテンプレートを開いたところ。


2.KiCadからデータを出力する

必ずしもKiCadで元となる図形を作成する必要はありませんが、本記事は自作キーボード用のプレートを作成することを目的としていますので、KiCadからデータを出力する例で紹介します。


こちらが私がGL516デザインガイドに沿って自作したキーボードSnowFlake52のデザインプレート用のデータです。この通りの形で切り抜かれて、こんな感じの透明なプレートになりました。


データの出力方法は、GL516デザインガイドのChapter 07「作ったプレートを発注する」の「4-1.デコレーションプレートをpdf形式で出力する」を参考にしてください。

3.PDFファイルをsvg形式に変換する

KiCadから出力されたPDFファイルを、遊舎工房に依頼できるai形式(illustratorのベクター画像向けファイル形式)かsvg形式にする必要がありますが、Inkscapeで作成できるのはオープンフォーマットであるsvg形式になりますので、svg形式のファイルを作成していきます。順にやっていきましょう。

3‐1.テンプレートファイルにPDFのデータをコピーする

遊舎工房のレーザーカットサービスのページから、テンプレートをダウンロードします。「Laser_template」というフォルダの中の「Inkscape」というフォルダに各種サイズのテンプレートが入っていますので、こちらを使っていきます。

次に、KiCadから出力したPDFファイルをInkscapeで開きます。

InkscapeでPDFファイルを開いたところ。表示サイズを調整したい場合は、右下の%のところで。

上記でダウンロードしたテンプレートの中から、適切なサイズのものをInkscapeで開きます。本記事の作例はA4サイズに収まらないので、450×300のテンプレートを開きます。

テンプレートをInkscapeで開いたところ。

「レイヤーとオブジェクト(S)」のタブをクリックし、「カット2(R0G0B255)」を選択しておく。


PDFを開いた方のウィンドウで、「編集」→「すべてを選択」(もちろん、「Ctrl+A」やマウスで全体を選択してもよいです)で図形全体を選択してコピーする。


コピーした図形をテンプレートを開いたウィンドウの「カット2(R0G0B255)」のレイヤーに貼り付ける。


どうせ値段は一緒なので、私はプレートを複数枚入れてしまいます。割れたときのスペアにもなりますし。もちろん、他のキーボードのプレートを入れても構いません。下の例でも、私の設計したマクロパッドのPro Microカバー用の小さなプレートを入れてみました。

なお、遊舎工房にカットを依頼する際にはいくつかルール(パーツ同士は3mm以上離す、最小パーツは20mm×40mm等)がありますので、サイトで確認しておきましょう。


再度「編集」→「すべてを選択」して全体をコピーします。

「レイヤーとオブジェクト(S)」タブの「カット1(R255G0B0)」をクリックした後、テンプレート内の白い部分をクリックしてから(注)「編集」→「同じ場所に貼り付け」。

注 私の環境では、テンプレート内の白い部分をクリックしてから貼り付けをしないと上手くいきませんでした。

これで、カット1とカット2に同じ図形が貼り付けられました。

この後は、カット2に最外周の線のみを残し、カット1に残りの線(最外周以外の線)を残す工程になりますが、このままだと小さい図形が表示されないので(この記事の作例だと、ねじ穴が表示されていません)、線の太さを変えておきます。


例によって「すべて選択」した上で、右上のブラシのアイコンをクリックし、「ストロークのスタイル(Y)」タブを選択。線の幅を0.1mmにしておきましょう。こうすることで、ねじ穴も見えるようになり、選択が楽になります。

3‐2.最外周の外形線を結合する

「レイヤーとオブジェクト(S)」タブに戻り、最初に「カット1(R255G0B0)」を選択し、目のマークをクリックし、カット1を非表示にしておくと作業がしやすいです。


次に、「カット2(R0G0B255)」を選択し、最外周以外の線を消去していきます。


上図のように図形を範囲選択して消去してもいいですし、下図のように「レイヤーとオブジェクト(S)」タブでパスを選択して消去していってもいいです。


以下のようにカット2に最外周の線だけが残るようにします。


次に、最終的に切り出されるプレートごとにパスを結合していきます。下図の右上の小さな長方形(正確には長方形ではないが…)の例でいうと、この図形は8本の線でできていますが、これを一本の線にするという作業です。

図形を選択して、「パス(P)」→「結合(C)」とクリックすることで1本の線になります。この作業をしておかないと、レーザーカッターが1本の線と認識しないため、行ったり来たりしたり、仕上がりがきれいでなくなってしまう場合があるようです。


他のプレートもそれぞれ結合して、この工程は終了です。

3.最外周以外の線を結合する

次の工程は、先程とは逆でカット1上の図形から最外周線を消去して、それぞれの線の塊を結合していきます。

まずは、「カット1(R255G0B0)」の目のマークをクリックして表示させ、「カット2(R0G0B255)」の方を非表示にします。

先程と同様、下図のように外周線を範囲指定して消去、あるいは「レイヤーとオブジェクト(S)」タブでパスを選択して消去、いずれの方法でも構いません。


線同士が近くて範囲指定しづらい場合は、画面右下の%をいじって拡大すると作業しやすいかもしれません。


ひとかたまりの図形を選択して、「パス(P)」→「結合(C)」とクリック。これをすべての図形に対して行います。ねじ穴は元々1つの円の図形なので、結合作業はもちろん不要です。


3‐4.線の色を変更する

最後に、線の色を変更します。遊舎工房にカットを依頼する場合、最外周線は青、それ以外の内側の線は赤にする必要があります。


まずは、最外周の線を青色にしていきます。「カット2(R0G0B255)」を選択して(「カット1(R255G0B0)」は非表示にしておきましょう)、図形全部を範囲指定→右上のブラシのアイコンをクリック。「ストロークの塗り(P)」タブをクリックして、RGBの「B」を「255」にします。


次に、最外周以外の線を赤色にしていきます。「カット1(R255G0B0)」を選択して(「カット2(R0G0B255)」は非表示にしておきましょう)、図形全部を範囲指定→右上のブラシのアイコンをクリック。「ストロークの塗り(P)」タブをクリックして、今度はRGBの「R」を「255」にします。


これでデータの作成は終了です。忘れずに保存しておきましょう。

4.発注する

遊舎工房のレーザー加工サービスのサイトからお好みの素材を選んで発注しましょう。

特段難しいことはありませんが、発注の段階ではデータを送信しません。発注後に遊舎工房からデータ送信の依頼メールがあるので、そのメールに返信する形でデータを送信します。

遊舎工房からの依頼メールに気づかずに放置してしまうと、いつまで待ってもプレートは送られてきませんので注意しましょう。

発注者側が送信したデータを遊舎工房側で加工可能かチェックし、問題なければその旨及び加工に入る旨のメールが届きます。データに問題がある場合は指摘があると思いますので、修正作業をすることになります(修正が入ったことがないので推測ですが…)。

5.終わりに(免責事項含む)

アクリルでプレートを作れるようになると、自作キーボードの幅が大きく広がります。本記事がIllustratorを持っていない皆様の参考になれば幸いです。

最後に、本記事は、「私はこうやったらデータが作れて、無事に遊舎工房への発注ができ、作品も問題なく完成しましたよ」という事例紹介です。この記事を参考にデータを作成した場合に、同様にうまくいくことを保証するものではありませんし、何らかの金銭的損害が生じた場合も、当方で責任を負うことはできません。あくまで、参考としていただければと思います。素人のため、質問への回答等もできない可能性が高いです。遊舎工房にアクリルカットを依頼する際のデータ作成に関して疑問がある場合は、同舎に質問していただければと思います。よろしくお願いします。

それでは、皆様の自作キーボードライフが充実しますように!!

この記事はSnowFlake52で執筆しました(←これを書いてみたかったwww)。

コメント

人気の投稿